Published:2015.10.01
お名前:竹川英識さん 40才 有機栽培農家
竹川麻衣子さん 36才 有機栽培農家
草太郎くん 2才
一宮町人:2014年~
先住地:栃木県芳賀郡茂木町
農業を始めたきっかけは?
もとは2人ともフリーターだったんです。主人はDJをしながら、私は絵を描きながら東京でアルバイトで暮らす20代でした。本人はそれぞれ一生懸命に生きているつもりでしたが、今思えばどちらかというとフラフラした若者だったのかもしれません。
そんな2人が東京で知り合って、6~7年付き合っている間に農業を始めようと思い立ったんです。有機栽培の農家が販売していた野菜の宅配を利用していて、その農家さんのお宅へ宿泊しながらの農業体験なんかもさせていただいたりして、自分の食べ物は自分で作りたいと思うようになったことが一番のきっかけでした。田舎に住んでいると自分のすぐそばで野菜が育っていたりお米が実っていたりするのを目にできますが、都会に住んでいるとそれが難しくて。季節感も無くなってくるし、お店に陳列されている商品を見ているだけだと“食べ物は生き物なんだ”っていう感覚も薄れてきますよね。大人にとっても子どもにとっても、それは良いことではないんじゃないかなと感じていたんです。私自身、有機栽培の野菜を食べたことで気付かされたことが多かったので、畑が家庭の台所とつながっているということをもっと生で感じてもらえるような活動を自分達でもやってみたいと思ったんです。
そんなわけで、結婚してから貯金をして、2人一緒に農業を始められる状況が整ってから新天地を求めて栃木へ引っ越しました。
どんな農業をされているんですか?
有機栽培の野菜と、平飼い養鶏の卵が中心です。野菜は旬の野菜を何でも作っている感じで、種類でいえば60~70品目にもなります。年間を通して宅配セットで出荷しているんですけれど、1回の宅配で10品目くらい入れていて毎回少しずつ種類を変えているので、そのくらい必要になるんですよ。一宮に来る前、2010年から栃木県の茂木町で農業を始めて、その頃作っていたキノコも来年あたりからもう一度ここで栽培しようかと考えているところです。栃木では今より少し規模が小さい1haくらいの農地でしたが、今と同じ有機無農薬で多品目栽培のスタイルを続けていました。それを一宮に来てからは2haほどに拡大したんです。夫婦でやっている有機農家としてはまずまず大きな部類に入るんだろうと思いますが、研修生も2人働いてくれているのでちょうどいい広さですね。多品目でやっていることもあって、これ以上大きくなると4人では手が回らなくなりそうです。
栃木から移住を考えたきっかけは?
2013年の9月に、栃木ですごく大きな台風に見舞われまして。翌日の朝に近所の方から電話がかかってきて「お宅のハウスが潰れてるよ」と聞いたんです。急いで見に行ってみるとハウスどころか家の前の土手が全部崩れていて、その下にあったハウスも崩れ落ちていたんです。山間部を大きく階段状に切り開いた土地だったので、それがまるまる崩れてしまったという状態でした。
家の裏側も山が崩れかけていて、全部流されてしまう前にとまだ生まれて半年だった草太郎を連れて車で親戚の家まで非難したんです。またその土地は景色も人もとてもいいところだったのですが、冬になると-10℃まで気温が下がったり、山間の傾斜地なので日当たりが良くなかったりと実は年間を通して農業をやるには不向きだったんです。だからいつかはもう少し南の地域でやり直したいなと感じていたというのもあって、その台風を機に違う土地を探し始めました。
移住先に一宮を選んだポイントは?
一番は暖かさと平らな土地で、農業をやるための条件がそろっていると思ったことですね。それから千葉の中にも都会があるので、これからお客様を増やしていくのにいいだろうなと。
一宮自体も移住者の方が多いので私たちの作る野菜に関心をもっていただける方も多いんじゃないかとも感じました。
実際、こちらに来てからはとても栽培しやすくなったし、お客様の数もだいぶ伸びたんですよ。それにこの家は、実は主人のお母さんの実家だったんです。私たちが暖かい土地を探し始めた際に、それまでこの家に住んでいらした親戚の方が偶然にも引越をすることになりまして。私たちは引っ越して新しく農業を始められるなら次はアパート暮らしでもしょうがないと思っていたんですが、ここは昔農家だった家で、納屋もあるし最高の条件でした。
栃木で土砂崩れが起きたのが2013年の9月で、その年末には引っ越してきたのでほんとにバタバタという感じです。一宮への移住は、最初は栃木での台風という良くないことから始まりましたが、移住してみたら結局はいいことばかりだったので、不思議な縁を感じています。
一宮の子育て環境はいかがですか?
引越をしたとき草太郎は8か月くらいでしたが、移住してみて改めてこの土地の暮らしやすさと子育てのしやすさを感じています。
保育園も11か月の頃にはスムーズに入れてもらうことができてホッとしました。他の町ではなかなか保育園に入れないお子さんがいると聞きますが、一宮町の方針で、保育園が必要な家庭にはできるだけ受け入れられるように取り計らっていただけたんです。子どもは自分で面倒見たいと思っていたので、本当は保育園に入れるのはためらっていた部分もあったんですが、仕事を続けていくにはしょうがないかと思って入れてみたら、先生はとっても優しいし、今は子育てについて何にも心配がないといってもいいくらいです。自然がいっぱいだし環境もすごくいいですよね。
栃木も子どもが生まれるとご近所の方がみんな集まって、1年に3回もお祝いをしてくれるような、人の気持ちがとても温かい町だったので私は大好きでした。
比べてみるとこちらは風通しがいい感じがしますね。町の方は元気で、言葉も歯切れがいいというか。
あと海が好きで移住してきた方にはなんだか華やかな印象がありますね。全体的にラテンっぽいというか。その土地土地に良さがあるものなんだなって感じました。
住む場所としての一宮の環境は?
農業体験などでやってくる方はやっぱり都会に住んでいる方が多いですよね。そういう方でも働く場所として入りやすいような、ちょうどいい田舎加減が一宮にはあります。農業や田舎暮らしにあこがれている方は、本当にすごい田舎だと少し躊躇する部分があるんですけれど、そんなに身構えずに飛び込めて、田舎暮らしのいいところだけ満喫できるような雰囲気ですかね。海もあるし山もあるし、ゆったり過ごすにはとってもおすすめですね。田舎過ぎて不便が勝ってしまうこともないですから、自由な気持ちも感じながら喧噪を離れて暮らせる場所だと思います。栃木では1日泥だらけになって働いて、家に帰ったら寝るだけという感じで、それはそれで山の暮らしを満喫していたんですが、一宮に来てからはもっと自由な田舎暮らしを楽しんでいます。
逆に不便に感じることはほとんどないんです。私たちがもっと厳しい環境から越してきたからかも知れませんが、スーパーも役場も駅も近いところにあるし、隣のいすみ市に行けば子どもの病院もあるしで、とても便利だなと感じています。
有機栽培をするにあたって土壌の質はいかがですか?
初めはとてもビックリしました。
自分が今まで知っていた土とは全然違ったんです。気候が暖かい千葉に来たことで、栽培にとっては良くなることばかりだなと思っていたんですが、一年目は大失敗してしまいました。海が近いからか、ほとんど砂のようなサラサラの土壌で、水はけが良すぎたんですね。それで肥料もその場に留まらずにどんどん抜けてしまって。土地が肥えていなかったので作物が全く大きくなってくれませんでした。乾燥によって土の温度も上がってしまって、夏の作物があんなに萎れるのを見たのは初めてでした。
それで栃木でやってきた方法をここでそのまま適用しようとしたのが間違いだったと気づきました。いったん計画を全部やりなおして、この土地に合った方法を検討してみたんです。具体的には、温暖な千葉は栃木よりも早く暖かい時期を迎えるので、苗を植える時期を前倒ししたりですね。すると今年はバッチリうまくいきました。他には夏など無理な時期に種を播かないとか、どうしても播く必要があるときは遮光ネットをかけるとか、やっぱりその土地土地に合った農業のやり方をすればうまく行くんだと思い知らされましたね。
他に有機栽培のお仲間はいらっしゃるんですか?
つい最近、同じ一宮で有機栽培をしている農家さんと集まって、情報交換をしていこうというところです。
それと今、一宮の自宅から通いで研修生として入っていただいている女性も卒業したらこの町で有機農家として独立して就農することになっていて、彼女ともこの地域で有機栽培のコミュニティを作っていこうと話しています。同じ地域で同じような農法をしている仲間が増えれば、この土地に合っている品種を見つけたり、新しい作物でも種の播き頃を探したりと、きっといろんな意味でお互いに切磋琢磨しながら向上できるんじゃないかなと考えているんです。
この土地ならではの自然に対する向き合い方があって、一人ひとりがその状況に直面するたびに考えていくよりも、それぞれの経験値を共有することでみんながどんどん成長するというか。それが、人が集まって暮らすコミュニティの一番おおもとの意味なのかも知れませんね。
それに今、ここで農業をしている方はやっぱりお年寄りが多いですから、農業用地もこの先の担い手を必要としています。新しく農業を始めようという方が、私たちのところから広がっていってくれるのも楽しいことだなと思っています。
これから先どんな農業をしたいですか?
この先というと、販売のことですね。レストランなどで使っていただく分は必要な種類や量をご注文いただいていますが、今の宅配の形は、嫌いなものなどを事前に伺っている以外はほぼお任せで出荷させていただいています。
基本はその時期の一番美味しい野菜をお届けするというスタンスです。それ自体が都会の方にとっては季節の便りにもなりますから、喜んでいただいています。
ただ、やっぱり一番鮮度がいい状態でお届けできるのは近隣なんですね。だから都心への出荷も拡大しつつ、近くにお住まいの方へのアピールにも力を入れていきたいなと考えています。あとはイベントを定期的に行おうと計画中です。今年一番好評だったのは、鶏を絞めるイベントでした。参加者には当日朝から鶏を捕まえることから体験してもらって、庭で首を切って血を抜いて、羽をむしって解体するところまで全部みんなでやってもらったんです。あとはレストランの方に調理していただいたものを一緒に食べたんですが、これは皆さん本当にいい体験になったと言っていただけました。命を食べることの実際を知ることで、食べ物の大切さを分かっていただけたんでしょうね。この秋には大人向けの芋掘りを企画中で、みんなで掘ったさつまいもを芋焼酎にして楽しもうというものです。これもきっと喜んでいただけるものになると思いますよ。
一宮へ移住を考えている方へメッセージをお願いします。
これはうちに来てくれる方にいつも言っていることなんですが、「ちょっと欲張りな人にはぴったりな町」だと思います。
海もあるし、山も近いし、ちょっとオシャレなお店も美味しい食べ物屋さんもあるし、本当になんでもある町ですから。それに東京も近いので都会が恋しくなればいつでも行けますもんね。すぐ近くには白子の温泉もあるし。移住を考えている方にはとってもおすすめです。都会では考えられないくらいの自然な贅沢ができる、農業だけじゃなくて、何をしたい人でも自分の好きなように暮らすことができる町だと思います。
住んでいる人も心がゆったりしているのか、車で走っていると道をゆずってもらう経験がとても多いです。こんなおおらかな気持ちの町は他に知りませんでしたから、いつも嬉しいなと感じています。
新しく移住してくる方も、きっとこの町が大好きになると思いますよ。
竹川さんの農園「さいのね畑」のHP:http://sainone.com/
無農薬・無化学肥料栽培の野菜やハーブ、平飼い養鶏のタマゴなど最高の食材を定期宅配で購入できます。お試しセットもあります。