Published:2011.12.15
お名前:可世木 博親さん 71才 画家
可世木 知子さん 69才 主婦
一宮町人:1999年~ 先住地:東京都杉並区西荻窪
移住する前はどちらに?
可世木さん:東京の西荻窪の社宅に居ました。移住して来たのは1999年、12年前ですね。定年の1年前に来ました。
東京への通勤生活もしていたのですね?
可世木さん:1年間通いましたよ。会社が京葉線で東京駅の改札を降りてすぐのところでしたから、上総一ノ宮駅からの始発に乗れば座って行けるのでさほど辛くはなかったですね。
会社は二重橋の正面だったから、別世界を毎日行ったり来たりしているようでした。一宮の駅に降りるとなんだかほっとしますね。何かいいですね、ああいう駅舎は。駅前も昭和30年代くらいの雰囲気をかもし出していて、とても気に入っています。
移住された目的と選んだ理由は?
知子さん:主人がアトリエを持ちたくて。それが1番の目的です。西荻辺りはすごく土地が高いでしょ。とてもアトリエ付きの家なんて建てられない。
可世木さん:かといって東京と全く無縁の所に行くのも嫌だし。ちょくちょく行けるような所ということで考えるとここ一宮までが限度ですね。たまには東京へ行って文化的なものに触れていたいじゃないですか。月に1~2度は今も行くかな。
知子さん:海もあるし、里山もあるし、その割に土地も東京に比べれば桁違いに安いしね。その上、東京まで行こうと思えば行けるし。ただ電車賃がもう少し安いといいのですけど。
これからの町に望むことは?
可世木さん:生命保険会社の研究所で定年を迎えました。そこでは、高齢者問題を扱っていて、実際に世田谷の町づくりを手伝ったりしていました。その時の気持ちがまだ残っているからかな。AWI(エリア・ウォッチ研究所)という研究所を仲間とたちあげました。今、40年後の一宮を考えてみようと言うことで、人口問題を調べて計算してみたら65才以上の高齢者が43%になる。まさに超超高齢社会です。
駅から128号線のこの辺りに金融機関もあり、駅、役場、学校、医療機関とほとんどが集中している。だからこの駅から1キロ四方をバリアフリーにして、歩いて回れる街にしようと提案しています。
これから移住を考えている方へ
可世木さん:こういうところの価値を知って、何をしたいって決めて来ないと、ただのんびりしたいとか漠然と来てもギャップが出てきますね。海だってのんびり見ているだけじゃすぐ飽きちゃうし。そこで何をやるかでしょう。
知子さん:それがないと来ても良さを分かって楽しく暮らせないかもしれませんよね。趣味みたいなものを持っていらっしゃれば、解け合って、地元の方と何かできるかもしれないし。
高齢者マーケットというのもあると思う。巣鴨のとげ抜き地蔵尊がいい例で、昭和30年代の雰囲気だからお年寄りも居心地が良いのでしょう。年寄り向けの衣料品やなつかしい食べ物がいっぱいあり、リピーターも多い。そこら中に椅子がおいてある。巣鴨信金にも話を聞きに行ったことがありますが、あそこはバブルがはじけても売り上げが落ちなかった。年寄りの客が多かったから。だからもう少し時代の流れに沿って高齢者向けにしてゆけば町の景気も良くなると思いますね。年寄りはお金を持っていても使い道がないとか、使いたいけど欲しい物が売ってないって言います。そこに駅前や近辺の商店街が復活できる可能性があるのではと思いますよ。
移住されて絵画の制作の方はいかがですか?
可世木さん:移住する前から絵は描いていましたし、いくつかの美術展にも出品していましたが、やはり専念というか没頭できる時間と場所が出来たことで作品の質も上がったし、大きな絵が描けるようになりました。
制作の合間によく近くの山や田んぼを散歩するのですが、気分転換というかそういう時間が大事なのかもしれませんね。私が描いているのは抽象画なのですが、自然に囲まれた里山の何千年、何万年の過去を持つ“土”と、刹那に通り過ぎる“風”を感じ取りながら作品の制作を進めています。
こちらに来てやっと手に入れたアトリエも今になって思うと小さ過ぎたなぁ、と。10畳くらいしかないので、200cm四方の絵だとアトリエから出せなくなってしまう。結局、最後の大きいキャンバスでの作業は外のテラスで描いています(笑)。それもまた気持ちがいいのですが。
奥様も県展で入選したとか?
知子さん:織物のタペストリで入選させていただきました。織物もこちらに来てから、すぐ近くに織を教えてくれる先生がいらしたので。それが結構面白くて。こういうテーブルセンターとか、服とか実用にもなります。織はまだ6年目くらいです。
可世木さん:趣味でも日常のものじゃないと。非日常の、例えばゴルフなどは、毎日できるわけじゃないし、メンバーも必要でしょ。その他の日をどう過ごすのか。日常の趣味は、一人でいつでもできるものを持たないと。テレビ見ているだけではすぐボケるだろうし。趣味のほかに自然の中に出て歩くこと、人としゃべること、この二つをやらないと。外に出て歩くのは体を使うことだし、しゃべるというのは脳を使うからね。その二つくらいは最低限やっておかないと。あるおばあちゃんは、毎日お化粧して買い物に行き、ひと回りしてあちこちでしゃべって、いっぱい買ってくるものだから、余ると近所に配って歩いていました。
また、歴史的にも玉前神社の門前町ですから、駅から続く参道の整備が必要だと思いますね。赤い毛せんを敷いた縁台でお茶が飲めるとか。元々、国道からの参道の入り口に鳥居があったのに、車の通行に邪魔だという理由で撤去されてしまった。利便性のために文化的なものを排除してしまう。文明を求めて文化を捨てしまうのは、もったいないですよね。
知子さん:最近、玉前神社もパワースポットって言われてるでしょ。私も易をやっているのでお水取りにいろんなところに行くのですが、その場所で必ず30分位時を過ごしてこなければいけないのですが、ここは過ごす場所もないのです。
可世木さん:パワースポットで国道まで行列が並んでいるそうだから、そういうのは活かさないとね。それともう一つは駅から海岸へ抜ける通りに街路樹を整備する。玉前神社から駅、駅から海岸と一宮の顔ができるじゃないですか。そんな町にしたいですね。
住んでみた感想は?
知子さん:こちらに来てほんとに良かったなと思います。主人も持病を持っているので旅行とかには行けないのですが、すぐそこで桜は見られるし、紅葉もあるし、海もある。東京にいた時は自然の景色を見に行きたいと思いましたが、ここにいるとわざわざ行ってまでとは思わないですね。むしろ東京へ行って美術館など見たりした方がいいかなって思います。
でも、東京にはもう住みたいとは思いませんね。こちらの方がずっといいです。畑も借りてやっており、夏は日中が暑くて行けないので朝4:30ごろから出かけています。
■可世木 博親さん (かせき・ひろちか)1940年生。 画家(国画会準会員/千葉県美術会会員)
「日本の自然を描く展・上野の森美術館賞」('94年)、「日仏代表作家展(フランス・ランヴィエ美術館)ランヴィエ市長賞」(2001年)、千葉県展・奨励賞('00年)、同・千葉県立美術館長賞('03年)、同・県議会議長賞('05年)、国展・新人賞('07年)、同・奨励賞('08年)など多くの受賞歴を持つ。作品は、HPや年に1~2回の各地での個展、展覧会の他、自宅アトリエに併設されたギャラリーでも鑑賞することができます。
住所:〒299-4301千葉県長生郡一宮町一宮3714-1 TEL・FAX 0475-42-6087 http://www.h3.dion.ne.jp/~kaceki/