Published:2011.11.08
お名前:大澤 進さん 59才 農業・直売所経営
ご家族:大澤 礼子さん 59才 中核地域生活支援センター勤務
一宮町人:2002年~ 先住地:横浜市戸塚区
移住されるまでの経緯は?
某情報会社のごく普通のサラリーマンとして30数年。
2002年、50才で会社を辞めて移住して来ました。
辞める前の数年間の名古屋での単身赴任以外は、ずっと東京勤務でした。僕は北海道の出身ですが、家内が茅ヶ崎の出身なので、住まいはずっと神奈川県内。
農業への転身は大変だったのでは?
歳とってからも何かができている、ということが大事だなと思って。
自分で会社を作るとかよりも農家の方が体に良さそうじゃないですか。
それで健康であればいつまでもできるしね。農業はいいなとずっと思っていたのですよ。
その頃、第二の人生に畑違いのことをやってみる「人生二毛作」という言葉が流行っていた時期で、それに乗せられた感はあるのだけれど。
千葉・一宮にしたのは?
随分あちこち探しましたよ。
神奈川に住んでいたこともあって、消費者が多くいる神奈川がほんとはよかったのだけれど、農地が高くて初期投資が大きすぎる。
で、長野や山梨にも行ったりしたのですが、冬は相当寒いという話を聞いて。
せっかくだから冬場も畑仕事をやっていたいじゃないですか。それで千葉県だと。
農家になってみていかがですか?
畑は6反歩弱(約1700坪)、田んぼは4反歩半位(約1350坪)。
基本的には一人でやってます。
家内も最初やる気満々だったのだけれどやってみると「向いてない、農家に嫁に来たわけではない!」と。
その代わり外で働いて現金を稼いでくるからということになり。少ないですけど家内の現金収入があるので助かります。
今のところ農業だけじゃ食っていけないですからね。少なくとも僕のやり方では。もうちょっと大きくやるとか、専門的にやるとか、もっと熱心にやるとか。
実際、ガソリン代や車検代、肥料や種を買うとか経費の部分がやっと面倒みられるくらいです。
金銭的な面から言えば、あのまま横浜のマンションで何もしないでいた方が一番よかったというのが分かりました(笑)。
あるいは、その辺りでアルバイトした方がよっぽど儲かります。
しかしロマンのある仕事というか。食べ物を作っているというのはすごく安心感がある仕事ですよ。
とてつもなく高いオモチャを買ってしまったようなものなので死ぬまでこれで遊ぶということかな(笑)。
楽しめてますね、仲間にも恵まれたし。良かったですよ。
会社では“地球環境を大切にしよう”というセクションの責任者を兼務していたのでいろいろなことを調べていくうちに、手に負えないこともいっぱいあるけれども、“農業”なら自分でもできるのではという思いはありました。
会社でもたまたま一定の年齢になれば自由に定年退職できる「選択定年制度」という制度がありまして。多少退職金もよかったりして。
それと娘が二人とも大学を卒業したので、あとは好きなことやらせてもらうよ、と。その制度のお陰もあって気楽に辞められて農業に入れたということです。妻の理解を得られたのが一番ですけど。
土地は何カ所か見にいきましたね。
成田の方から南下してきて、横芝の辺りにいい物件があるというので行ったら、家内が気に入らないとか。成田の方は土はいいけど飛行機がうるさいとか。
それでこの辺りに来たら何となく茅ヶ崎に雰囲気近いよねって話になり。ここなら住んでもいいという家内のお許しが出ました。
北海道の田舎育ちで周りはみんな農家でしたし、母親も多少は野菜作りをしていたものですから、農業は自分でも出来るだろうと少し甘く見てましたね。
実際移ってきて、さあ畑やれってことになると何やっていいかよく分からない。はたと困ってしまって、東金の千葉県農業大学校というところで新規就農者向けの短期コースがあり、半年間通って実習と学科を勉強しました。
それが農業の基礎。
そこで野菜の作り方や肥料の考え方を学んで。それでなんとかやってゆけそうかなと思ってやりはじめたのです。
元々この一宮町に一人だけ会社員時代の知り合いがいたのです。
その人を訪ねて来てみたら、ちょうど知り合いの知り合いが農地を売ってもいいよという話があり、その人に仲介してもらって無事に購入できました。
直売所もやられていますが?
直売所「菜鮮箱」*をはじめて7年程になります。
いずれ直売所を自分でやろうと思っていたところ、たまたま建物の部材をいただいて。いろいろ買い足したり、近所の人に手伝ってもらってかなり安く建てることができました。
他所の直売所に出荷するのは面倒なのですよね。無くなったら届けなくてはいけない、終ったら回収にいかなければいけない。自分でやっていれば、何が求められているか分かるし。
無農薬栽培はご苦労も多いのでは?
無農薬は大変です。
虫との戦いですからね。ウチの野菜を食べてるうちに虫に慣れたという人もいるし、あまりにも立派な虫が出てきたので飼ってます、という人もいるし(^_^;)。
米でもなんでも半分位しか穫れない。
半分の出来で2倍で売れればいいのですが、2倍というのはなかなか付けられる値段じゃない。普通に買うよりは少し高いのだけれど、無農薬にしては安いという値段に。
ウチの玉子は平飼の有精卵という飼い方をやっています。雄鳥は沢山ご飯を食べるので餌代もかかるし、普通に玉子を獲るだけなら雄鳥はいらないわけですが、そこに命としての完全性が担保されるわけですね。
そういうものを目指したいのです。
地元の方とのおつきあいは?
夕方になると近所の農家仲間と飲みに行っちゃう。
サラリーマン時代からの癖だね。
地元の昔からの農家とも知り合いになれたし、いろいろ教わってやってます。
助けてもらったり、機械を貸してもらったり。
ここに来て住んでいるだけだったら友達作るのも大変だったろうけれど農業をやってるとつながりがあって、知り合いは作りやすいし、助けてくれるからありがたいですよね。
周囲の人にほんとに世話になってますね。僕みたいに素人だと機械がちょっと不調になったりすると、もうどうしていいか分からないからね。そういう時に先輩農家に言うと飛んできてくれるからね。農業機械も知り合いが要らなくなった古いものを持ってきてくれるから少しずつ良いものが揃ってきてますよ。
お休みは?
休みはないですね。
お店は火曜日が定休日なのだけれど、茂原のケーキ屋さんとレストランとおそば屋さんに配達があります。
ほんとに休んでいるのは正月三賀日くらい。
ニワトリがいるので、餌やったり玉子穫ったりはしてやらないと。だから362日は働いてます。
でも全然休みが欲しいとは思わない。
毎日遊んでいるかのように楽しめているのでね。世話してやらないといけない動物がいるというのはヤル気の一番のきっかけだよね。
草なら今日は雨だから明日にしようというのが出来るけど、動物はそうはいかないから。
僕みたいな怠け者にはすごくいい動機付けになるのですよ。雨が降ってとりあえず急ぎの仕事がない時はここで店番しながら本を読んでられますから。
ここへ来た時に農家の人が「これからは作るだけじゃだめだよ。加工して自分で売るんだ」と。
その1次・2次・3次産業を全部一人でやる6次産業でなければこれからやっていけないよって話していて。素材を作っているだけではなくて、やはり付加価値をつけないと値段もつけられない、ということではまったくその通りなのですよ。
ですから今はちょっとそれに近いことに、といっても味噌とか落花生を煎ったものとかまだその程度ですが。
無農薬栽培でやっていることには確かに支持してくれる人は多いです。
でも、人数は絶対的に少ない。無農薬栽培であることが強みなのだけど強みにまだなりきっていない。
もうちょっとお客さんを広げないといけないですね。
実際、東京から来たお客さんはごっそり買って行きますからね。
BDFの活動にも関わっていらっしゃいますね?
天ぷら廃油からディーゼル燃料を再生する「上総BDFプロジェクト」*の一応、代表になってます。はじめは何もしないでいいからという話だったのですが、今は油の回収までやらされてますよ。回収は大変です。汚れるし。茂原小学校とか中学校、白子、大原のコンビニとか結構遠い所まで行ってるのですよ。
町民提案事業として町からの援助を3年いただき、来年度(24年度)からは補助金なしで自立していこうと。まあまあ順調に回っています。これで儲けてやろうとか余計なことは考えないで、適正な規模で無理なく回収できる範囲の油をメンバーの範囲の中で使っている分には問題ないのですが。これ以上広げるには会社組織にするとか、誰が見てもちゃんとしたプラントにするとかが必要になるでしょうね。
この町に住んでみた感想はいかがですか?
ここはみんな言うけどいいとこなのですよ、ほんとに。
ちょっと山っぽいのもあり、海もあり、東京にも近いし。
ただちょっと町の中が淋しいという感じはあるけどね。でも茂原に行けば何でもそろってるし、苦になる距離でもないでしょ。
ここから南へ行くとちょっと不便だよね。雨風強いと電車はすぐ止まるし。
僕の会社時代の友達がこっちに遊びに来てたら「ここはいいところだ」って何人か移住してきて、そば屋さんとか、越してきて農業やってる人もいます。
都会で働いていた人で田舎出身の人はここはとても気に入ると思いますよ。
昔から別荘地として栄えたのもうなづけます。また玉前神社を中心に伝統もあるしね。
お客さんは少しずつですが増えてますよ。この直売所が出来てから毎年伸びてます。お店をやってると「こういうのを置かしてくれ」と持ってくる人も多くなってきて。何もしないけど口コミで少しずつ増えています。
午前中は農作業して、午後は店番しながらなので時間が制約されるのが大変です。どうしても手が回らなくなる時もあるけど、無農薬栽培している農家の人が野菜を持ってきてくれるので助かります。全てが無農薬ではないのですが、誰が作ったものか分かるようにして無農薬か否かはちゃんと書いてあります。
移住を考えている方に一言
移住するというのはすごく大変なことなので、その前に何度も現地に行くこと。
ほんとにそこで暮らせるか。季節や天気も大事だからいろいろなシチュエーションを何度も変えてみて、この町に住む一番の理由は何かというのを自分の中で確認しとかないと。
例えば、町全体が平坦だからいい、というならそれだけでいいじゃない。でもだんだんいろいろ欲しくなってくるのですね。でも、最初「平坦だからいい」と確認しとけば「こんなはずじゃなかった」とはならないと思うのですよね。
あとは積極的に役場とかを利用して、調べて。
遠慮してたらだめ。
家を建てる場所にしてもかなり下調べをしとかないと後でちょっとしたことでも後悔につながっちゃうから。
新規就農については?
若い人の新規就農は支援がないと出来ないでしょう。
子どもを育てながらとかいうと相当大変です。
国がもっと農業について真剣に考えて、例えば、遊休農地を国が買い取って新規就農者には無償で5年間貸すとか。農地を買ったり借りたりというのは大変ですからね。
(新規就農支援)
もし一宮町が行政の柱の一つとして取り組むのであれば、そういうグループを作ればいい。
機械などを共有してやれるような仕組みを作ってやれれば入ってきやすくなると思うのですが。
不便やお困りなことは?
不便だなと思うことは、図書館がないこと。
公民館や商工会のビルに図書室みたいなものはあるのだけど。町には図書館が必要だと思うな。茂原まで前は行っていたのですが茂原図書館が茂原市民以外に貸さなくなってしまって、睦沢町まで行ったりする人もいます。
あとは駅の東口の開設を早くやって欲しいですね。
それとホールがないこと。そんなに立派なものでなくていいから。役場の建て替えがあるようなので、公民館や図書館、ホールも一緒にして建ててくれれば安くつくのでは。
*直売所「菜鮮箱」大澤さんが経営する無農薬野菜(一部、低農薬/ 減農薬栽培物を含む)や平飼有精卵などを販売する直売所。役場から海に向かう途中の右手にあります。
*「上総BDFプロジェクト」は、町民の皆様からご提案いただいた事業や活動を町が援助する「町民提案事業」の一つです。地域の家庭やレストラン、給食センターなどから使用済みの天ぷら廃油を回収し、BDF(生物由来ディーゼル燃料)として再生させ、ディーゼルエンジンの燃料として再利用するエコなプロジェクト。エネルギーの自給自足、地産地消の一つの方法として注目されています。一宮町役場西側にある朝市直売所と併設された「あぶら屋」さんで回収と販売を行っています。
平成24年3月中に駅利用者アンケートを実施し、利用者のニーズを把握して結果を参考に今後JRとの詳細な協議を進めていきます。
また通勤快速の増便など皆様からの要望の声をJRに届けていきます。