この町のこの人

Published:2012.2.29

お名前:石井 理永蔵さん 38才 農業
一宮町人:1973年生まれ~

農家を継ぐことは?

代々ここで農家をしています。明治から数えて5代目かな。それ以前はよく分かりません。農家を絶対継げとは言われていませんでしたが、長男ということもあるし、農家としては比較的大きな方だったので。

県立茂原農業高校に行き、その後、専攻科に行くか進学するかで迷ったのですが、柔道もやっていたのでその関係もあって東京農業大学の経済学科に進学しました。
農大卒業後、IFAAという農業研修機関を通して、アメリカに1年1ヵ月の海外研修に行きました。
ロサンゼルスの有名なレストランなどと提携した卸しと直売とを行う日系のChino Farm(知野農場)という農場でした。日本と比べると大規模農家ですが、アメリカではそれほど大きくはなく、露地ものの野菜で200種類くらい作っていました。日系のボスの下で、スパニッシュ系労働者に指示を出す中間管理職的な立場だったため、覚えたのは英語よりもスペイン語です(笑)。技術的な経験というよりも精神面の経験の方が大きかったかな。

 

農業を継いでみていかがですか?

帰国してから、最初はいろいろアルバイトもしながら、家の農業を手伝いはじめました。ウチはトマトとメロンのハウス栽培を主に、それと米もちょっと作っています。

トマトは市場への出荷が主なのでなかなか大変です。というのも、値段がこちら(生産者)では決められず、結局市場任せになってしまいます。消費者の人でも分かると思いますが、高いときはすごく高かったり。値段の上がり下がりが激しくて、それに振り回されちゃうのですよ。

 

新しいハウスを建設しているようですが?

スプレイポニックという方式のトマトの新しい水耕栽培に取り組もうとしているところです。愛知県豊橋などではかなり増えていますし、山梨へも視察に行って来ました。
ハウスを建てるのに数千万円という莫大な資金がかかります。資金は農協から借ります。広さは640坪くらいですね。ほんとは1000坪くらいあった方が採算的にはいいのですが、上手くいけば広げていきたいと思っています。これまでは越冬トマトという10月後半から2月いっぱい収穫できるものを栽培していたのですが、今度の作法は周年トマトと言って10ヵ月くらい収穫できるようになります。現在1反歩当り20トンほどの収穫を30トンにしようというプラントです。

 

なぜまた新しい挑戦を?

この辺りの農業は、東京という大消費地に近いので、そんなにがんばらなくてもなんとかなっちゃっていたのです。でも最近、熊本などは遠いけど、すごく規模を拡大して味は勿論、量を出荷してくるようになってきています。ところが、こちらは高齢化が進んで収量も減ってきています。みんな就職組で若い後継者がいないし、農協の青年部も今は昔ほどいないのですよ。これからたぶん10年経つと大分減るだろうと思います。出荷量が減ると市場との関係もありますので、一人当りの面積と収量を増やしていかないと市場出荷の場合はやって行けないでしょうね。
「長生(ながいき)トマト」というブランドがあるのですが、地元の人でも知らない人がいるのではないでしょうか。もう少しPRなどもがんばっていかないといけませんね。

あるいは、オーガニック系にして、小売りや契約のレストランへの卸など、小さくやるならプレミア的な付加価値を付けて高く売るというのもあります。その2分化になって行くでしょうね。

 

土耕から水耕に変わりますが、味的にもスプレイなので水に浸かる部分が少なくて濃い味も出せるし、食べてみたけど普通に美味しい味でした。土耕と違うのはちょっとフルーツ系の食味に近い感じで、ジューシーなのだけれど外側が少し固めと言う感じです。糖度的にも水をしぼれば上がるし、その辺りは好みに依ります。フルーツ系が好きな人、青臭い本来のトマトの味が好きな人、それぞれですね。
青山のセレブ・デ・トマトにも視察に行って、いろいろな珍しいトマトがあったのですがフルーツ系が多いですね。あそこまで行くとトマトというより別のジャンルという感じがしますが。

 

メロンも市場出荷がメインですが、小売りの方が利幅は大きいし直接お客さんの顔も見られるので楽しいですね。流通を介してデパートに出ると倍近い値段になりますから、賢い人はウチに直接買いに来たり、予約して宅配便で送ったり、直売所に買いに行ったりします。
メロンのホームページも自分で簡単なものを作っていますので、そこからも注文を受けられますし、メロンへの文字入れもやっています。とはいえ、HPからのお客さんはまだまだ少ないですね。これまでのお得意さんが中心です。あとはメロンの時期だけ茂原のフリーペーパー(『IR』)に載せてもらったりとPRもしています。ただ、メロンはそれなりに経費がかかりますし、出荷時期が2週間位と限られます。

 

町になにかご要望やご意見は?

隣の白子町では「たまねぎ祭り」など町をあげての祭りになっているようですが、一宮はないですよね。
去年でしたか「トマト祭り」をやっているよって突然聞いて。でも、生産者も知らない祭りって何でしょうね。農協もあまり関係してなかったみたいだし。一部だけでやっていて情報も伝わってこない。一宮でもいろいろとイベントはあるようですが、バラバラでまとまりがない感じがします。そうしたところをパイプ役として町に是非つないでいって欲しいです。

それと、お隣の大原の「はだか祭り」があれだけ盛り上がっているのに、一宮の「はだか祭り(上総十二社祭り)」は今ひとつ盛り上がりに欠けています。僕も毎年参加しているのですが、神輿の担ぎ手がだんだん少なくなってきています。神輿を担がなくとも、周りで賑やかしてくれるだけでもいいのですから、町民の皆さん総出で参加して欲しいです。でも、受け入れる体制がないとなかなか外からは入りづらいだろうと思います。南宮神社の方は、移住してきた方やサーフィン関係の人の参加も増えて、人は多くなってきていますよ。若い女性も増えてきていますし。お祭りは宗教行事という成り立ちもさることながら、文化としても捉えて、町にもっと協力していただいて、一緒に盛り上げていってもらいたいですね。

 

これからの農業を支えるためには?

先日も町長との交流会でお話したのですが、団体や法人に限らず、ある程度実績や経験、経歴があれば、個人に対しても補助金などを支給して欲しいです。
日本の農家って、補助が無いと採算が取りづらいのですよ。補助金の分でなんとか下駄を履かせてもらっているのが現状です。それも家族労働だから出来ることで、人件費などを考えていたら収入はもっと低くなってしまいます。

空いてる農地も結構あるので、新規で就農をはじめた人もいますが、思ったほど収入がないので、大抵続かないですね。農協でも「新規就農を考える会」などを立ち上げ、取り組みはじめてはいるのですが…。
新規就農の前に1~2年くらい通してできる研修制度があるといいと思います。通年でやれれば、勉強にもなるし、仕事も覚えてだんだん面白くなってきますから。農家ってやっぱり人手が必要なので、こちらとしても助かるし。でも、よくある「研修」とは名ばかりの安い労働力として働かせるというのではなく、日本の農業をちゃんと学びたいという海外からの人(学生など)を受け入れるのもいいと思います。

 

移住者の方との接点は?

最近、水耕栽培のハウスを若手農家と一緒に設立しました。
そこで、移住してきた方の奥さんたちの空いた時間にお手伝いをしてもらって、本当に助かっています。奥さんたちも家計の足しになったり、お小遣い稼ぎができたりして楽しく働いてもらっています。

出荷できないトマトや小さいうちに摘果したメロンなどを使った、加工農産物の講習会で地元の人と一緒にケチャップソースや漬け物などを作っています。

 

これから移住を考えている方に。

僕としては移住者は大歓迎です。
サーファーを含めて、そうやって町が変わって来ているのはいいことですよ。面白いじゃないですか。でも、あまり自己主張が強いと大変です。やはり田舎では人間関係がより大切なので、都会の感覚でポンポン、ガツガツ自分の意見ばかり言っているとぶつかってしまうかも。あくまでも地元に馴染むようにしていくことが大切だと思います。

 

*石井農園さんのHP:メロンの購入や名入れの注文が行えます。http://www.141farm.com

*One Heart Cafe: 一宮町の海岸通り沿いのカフェ・レストラン。理永蔵さんもDJする。http://oneheart-cafe.jimdo.com