Published:2013.04.02
一宮ネイチャークラブの皆さん
代 表 戸張七重さん(右)/都内文京区から移住
副代表 増田美奈さん(中央)/船橋市から移住
事務局 吉田百合子さん(左)/埼玉県新座市から移住
貴重な里山の風景が残る一宮で、米づくりや自然保護活動に取り組んでいる市民グループがあります。それが「一宮ネイチャークラブ」。
今回の「この町、この人」は、同クラブ代表の戸張七重さん、副代表の増田美奈さん、事務局の吉田百合子さんに、一宮の自然とその魅力について語っていただきました。もちろん、皆さん、生粋の一宮人というわけではなく、県内、県外から移住されてきた方々。一宮に暮らすきっかけや暮らしの印象についてもお聞きしています。
一宮ネイチャークラブの活動内容は?
戸張さん:昔からの地域の方々と新しく移住してきた人たちが、農薬や化学肥料を使わない環境共生型の米づくりを実践しながら、同時に里山の自然に暮らす生き物たちの多様性を守る活動をしています。
もともと自然豊かな一宮ですが、農業従事者の高齢化、後継者不足で谷津田のような環境がとても少なくなってきています。今となっては大変貴重なこうした環境を維持保全しながら楽しんでいこうと、大人も子どもも一緒に活動しています。
自然観察会も行っているんですね?
戸張さん:私たちがお借りしている田んぼは松子地区にあるのですが、ここにはゲンジボタル、ヘイケボタル、クロマドボタルという3種のホタルが生息していて、毎年6月には観察会を行っています。
また、松子川や田んぼの生き物観察会、ザリガニ釣り大会、隣接する森を歩いて植物の観察会なども行っています。
松子地区に生息する生き物たち
ゲンジボタル
今や希少なメダカ
ハグロトンボ
クラブに参加するきっかけは?
戸張さん:ここへ移り住んできた99年頃、地元の会員の方にホタルを観に連れて行ってもらったのがきっかけですね。自然に生息しているホタルを間近で観るのは初めてだったので新鮮な感動を覚えました。
増田さん:ずっと以前に鴨川の大山千枚田で稲作を体験したことがあって、それを伝え聞いた知人が一宮にも米作りに取り組んでいるグループがあると紹介してくれました。
最初は子どもが小さかったり、下の子が生まれたりしてブランクが続いたこともあったのですが、せめて皆のお手伝いくらいはと、折を見ては参加させていただいていました。
吉田さん:一宮に移住しようと購入した土地の周囲を夫と散策していた時のこと、田んぼの近くの遊歩道を歩いていたら、大勢の人が広場のような場所で楽しそうに何かしていたんですね。それが一宮ネイチャークラブの皆さんだったんです。
運良く、当時の会長さんともお話ができて「移住するならぜひメンバーになってくださいよ」と誘っていただきました。
こちらでの生活はいかがですか?
戸張さん:愛おしいですね。こうして日々身近に土や水に触れていると、その掛け替えのなさをとても感じます。
自分が住む場所や地域についても同じことが言えると思いますが、そういった思いが活動を後押ししてくれているのでしょうね。自然や地域の事を学ぶのも楽しくて、先輩にも恵まれ新しい友達もたくさんできましたよ。
増田さん:住めば住むほど好きになる町という感じでしょうか。
じつは私も主人もここへ来るまでは、一宮がサーフィンのメッカだと知りませんでした。でも主人は周りに感化されて遅咲きのサーファーをやっています(笑)。なんだか、ものすごくハマっているみたいです。
私はもうすっかりこの町の自然に身体が馴染んでいますね。
先日、久しぶりに都内に出る用事があったのですがとても疲れました。ああ、人ごみってこんなにも私を疲れさせるんだなって。一宮を離れてわかるありがたさ、といった感じですね。
吉田さん:自然と共にある暮らしには心癒されます。
たとえば、この間、停電があって家の外も中も真っ暗に。すると煌々とした月明かりの美しさが目に飛び込んできて大感激。「月ってこんなにきれいだったんだ」って。
夜に停電があったら本来は相当不安なはずなのに、心は至って平静。むしろその場を楽しむ余裕すらあったなんて不思議でしょう。このまま復旧しないのなら「寝ちゃえばいいか、朝が来たらなんとかなるでしょう」って、夫と2人あっけらかんとしていました。都会での暮らしではとてもこうはいきませんよね
クラブの発足はいつですか?
戸張さん:2001年です。
その前年に、地元小学校の児童が校内で地メダカを飼育していましたが、校長先生や教育委員会の協力で松子地区の休耕田にメダカ池をつくって、そこで保護していくことになりました。このとき無農薬の稲作水田もつくって、その管理や周辺遊歩道の除草、関連事業を目的に、クラブの母体である「松子川ネイチャークラブ」が誕生し、のちに「一宮ネイチャークラブ」となりました。
クラブの活動を通じて何かご自身に変化は?
戸張さん:自分のイノチを支える食べ物を、自分たちの手でつくることができる──米づくり体験を通じてそれに気づかされたことは大きいですね。
こちらに来るまでは便利な都会暮らしをしていましたが、どこか言い知れない不安を抱えていたのも事実。それは今思うと、食べ物をすべて他人や社会に依存する生き方はアブナイですよと、身体は解っていた(笑)。
自然と共にある一宮の生活は大きな安心感と自信を与えてくれましたね。
増田さん:田んぼに立ってみて気づいたのは「風が気持ちいいな」ということ。友人も「それ、わかる!」ってお互いが共感できたのがまず嬉しかったですね。
それと、子どもたちが積極的に参加するようになりました。最初はただ私についてくるだけだったのが、今ではみんなこの田んぼに来るのが好きみたいです。いちばんの変化といえば、私自身に子どもたちから目を離していられる時間ができたということ。周りには大人も子どももいますし、頼りになる先輩方もいらして子どもの相手をしてくれたり、声をかけてくださいます。可愛がってくれるんですね。それが子どもたちもうれしいみたいで。
自然との触れ合いだけでなく、人との触れ合いもある、それが一宮ネイチャークラブのいいところですね。
吉田さん:戸張さんの仰っていることはすごくわかりますね。
仮に何か災害のようなことが起きても、自分の家の庭に芋があるから大丈夫だろうとか(笑)、近くの農家まで行けば食べ物くらいなんとかなるといった安心感があります。都会に住んでいたら、真っ先にスーパーに食料を買い占めに行くところなんでしょうけれど。
ところで一宮に移住されたきっかけは?
戸張さん:一宮の環境に惹かれた親が20年以上前に引っ越してきていたので、ちょくちょく遊びに来ていましたが、自然いっぱいで空気も食べ物もおいしくて感激したものです。
そのうち親も高齢になってきて、私も年齢とともに自然豊かな生活のほうが自分に合っていると思い移ってきました。
伝統的なお祭りや盛大な花火大会など、この地ならではのエネルギッシュな行事があるのも魅力的でした。
増田さん:ずっと以前から田舎暮らしに憧れていたんですね。で、主人に相談したら「いいよ」ってことになって。
いろいろ検討したら、2人が好きな海が近くにあって、最寄のJR上総一ノ宮は快速の始発駅ということもあり、主人の通勤問題もこれでクリア。で、ここに決めました。
長女がちょうど小学校1年生に上がるときだったのでそういう意味でもよいタイミングでした。
吉田さん:夫の実家が千葉にあるので、いずれは県内のどこかに居を移す予定でした。できれば海あり山ありの土地がいいね、というのが2人の共通した意見でした。
私はといえば、家庭菜園がしたかったので野菜がつくれるだけのスペースはほしいなと。
こんな条件に見合った土地を探していたのですが、夫は勤めがあるので通勤圏内でないとダメということで、いろいろ検討した結果、一宮に決まりました。
勝浦や鴨川あたりも候補でしたが、通勤ということを考えるとやはり厳しかったですね。その点、上総一ノ宮から特急を使えば東京まで約1時間、快速の始発駅でもあるので座って行けるということが決め手になりました。
今後のクラブの活動について
戸張さん:里山の自然あふれる一宮。では、今まで誰がその手入れをしてきたのかというと、この土地に代々暮らしてきた地元の方々なんですね。それが今日、後継者不足などの問題を抱えていらっしゃるので、私たちもこの活動を通じてお手伝いができればと思っています。
また、子育て世代の会員は子どもたちが安心して遊べる田んぼや原っぱがこの先もずっとあってほしいと願っていますので、次の世代に引き継いでいくのが私たちの使命だと考えています。
増田さん:あの田んぼに行くと、自分がしたいことができる。しかも、子どもの相手をしてくれる大人や、一緒に遊んでくれる子どもたちもいるから、私自身、没頭できるんですね。言い換えればこの時間はお母さんではなく1人の女性として人生を楽しんでいられるんです。そんな私の生き生きした姿を横目で見て、子どもたちもきっと喜んでくれていると思います。
これからもずっとこの活動を続けていきたいですね。
吉田さん:一宮ネイチャークラブは地域の人たち、子どもたちが田んぼを守ろうという純粋な気持ちで集まって活動をしているのが素晴らしいんですね。決して商業絡みでもないし、一過性のイベントでもない。ここに地域のパワーを感じます。また、古くからこの地元で暮らしている人たちと私たち新住民との交流が活発なのもこのクラブの魅力です。しかも老若男女、年齢や立場を超えてひとつになれる貴重な場。言ってみれば、自分が住み続けたいまち、その縮図がこのクラブだと思います。大事に育てていけたらいいですね。
会員募集中
一宮ネイチャークラブは、環境教育や自然保護などの活動を続けながら、一宮町・松子地区で無農薬による米作りを十数年以上続けている市民グループ。
田草取りや稲刈りなどの農作業をはじめ、自然観察会を通じて希少な里山の動植物と触れ合ったり、秋には収穫祭を行ったりと楽しい行事も。
自然が大好きだという方や米づくりに参加してみたいという方はぜひ会のメンバーに。
お問い合わせ先:
ichinomiyanatureclub@gmail.com
松子地区に生息する植物
ヤマユリ