Published:2014.03.11
お名前:こまちだ たまお さん 美術家、美術教室主催・講師
一宮町人:1971年生まれ~
生まれも育ちも一宮なんですね。
はい、大学は東京で東京芸術大学に行っていたんですが、一宮に戻った理由は海のそばで過ごしたかったこと、自然の環境の中で作品を作りたかったんです。学生時代からずっと美術教育に携わる仕事をしていて、自分の教室を開いて仕事をしていきたかったんですが、それにあたってはやっぱり自然のあるところ、海のあるところ、土のあるところで、アートと子どもたちが関わりあえること。それが作品にも子どもたちの心にも影響が大きいと思っていたんです。自然といっても日本中いろんなところにありますが、九十九里浜が好きなんです。生まれ故郷だからといったらそれまでかも知れませんけど、やっぱり心の拠り所だったのは確かです。大学進学の際、もうここには戻ってこないんだろうなと思って出ていったわりに、むこうで作品を作りながら生活していると、時々海が見たくなるんですね。だから曾祖母が住んでいた古い家をアトリエ代わりにして卒業制作を行うという名目を作っておいて、時間があれば帰ってきて海を見に行っていました(笑。
やっぱり九十九里の海は他とは違いますか?
ええ、まずあの広さ。どこに行ってもあの広さって他にはちょっとないですよね。アート作品を作るっていうのは唯一無二の自分を表現するっていうことでもあるんですけど、それと同時に自然の中に身を置くことで、矛盾かもしれないけれど逆にちっぽけな自分も見つけることができる活動だと思うんです。自然の大きさを感じて相対的に自分を認識するというか。大きな空間の中での自分と、ここにしかない自分とがあると思うんですが、その大きな空間の中にある自分を確認する場所っていうのは私にとっては九十九里だったんだと思っています。
一宮で開かれているアート教室では主にどんな活動を?
ここでは子どもたちだけでなくお年を召した方まで様々な方に、自然に触れながらアートの楽しさを伝えていこうとしています。教室は町役場にも近い比較的市街地にあるんですけれど、素材自体には木を使ったりして、自然からは離れないように考えています。昨年などは藍染の藍を育ててそれを使った染物もしました。素材から全て自分で作っていくことで、自然の一部からアートとして完成するまでの繋がりを感じてもらえたと思っています。あとは、アート合宿も行っています。これまでは海に出かけて行って、砂浜に穴を掘って、石膏を流し込んで彫刻を作ったりなどをして、自然のなかでの造形活動をしています。なるべく自然物で手を汚すというか、感覚をフルに使うカリキュラムは織り込んでいます。
自然に触れられる環境が整っているということですね。
それはもう。私自身がそういう中で育っていますから。私が子どものころにはこのあたりも一帯が林だったので、友達と遊びに行ったらスカンポ(イタドリ)っていう植物や桑の実を採って食べたり、椎の実を採ったらみんなで炒って食べたり、おやつは現地調達していました(笑。遊びもザリガニ釣りなんかをよくしましたね。今はずいぶん宅地になっていますが、少し山の方まで行けばまだまだそんな環境が残っているのも魅力だと思います。宅地が増えたということは人も増えてきたということですから、そのぶん人が住みやすい場所になっています。ただ元来の自然っていうものは、保持しようという努力がなければ残っていけないものにはなってきているんでしょうね。そこには人の意志が必要。新しくこの町に住みたいと思ってくれる方はここの自然に魅力を感じてくれる方だと思うんです。だから地元の人と一緒になって、自然を大切に考えてくれる方が増えてくれることには期待しています。
教室が休みの時には何を?
城西国際大学さんの生涯教育センターで絵画等の講師をもう12年くらい続けていますね。あとは長生健康福祉センターさんでのデイケアのお仕事や、香取市のコスモスの花さんというNPOで美術造形教室を開かせていただいたりと、教室以外でもいろいろやっているんです。あとはバタバタと動き回りながら絵を描いて、個展を開いたりもしています。
その合間を縫っては海に出かけて、作品に使う貝を集めたりもしますよ。長くて広い九十九里の海岸も、ところどころで生態系が違うんです。だから場所を変えたら採れる貝殻やサンゴのかけらも変わって、いろいろなインスピレーションを与えてくれる。実はあまり知られていない秘密の海岸もあるんですよ。森の中も同じで、自然の中の一つひとつが何かしらを教えてくれる。都心では一念発起しないと近づけないような環境もここだとすぐそこにあるんです。
一宮での美術教室はどんな意味があると思いますか?
これはこの町に限った話ではないですけれど、学校では徐々に美術教育自体が少なくなってく傾向にあります。実際に子どもたちがアートに触れる時間は確実に減っていますが、実はそれって“心”を形作る時間が削られているのに等しいことかも知れません。実際に感じるところでは最近は子どもたちがなんだかイガイガしているように思います。受験のための勉強をする時間は増えたかも知れませんが、それだけでいいのかなって。アートだけじゃなく自然に触れることも“心”を作るための大切な時間。それはいろんな物事に対しての考え方や人が生きていく上でとっても大切なことを教えてくれるはずです。一宮で美術教室を続けていく中で、私は子どもたちに自然の中で感じることを大切にする“心”を育てていきたいと考えています。
一宮をヒトコトでいうと?
小ぢんまりとしたいい町です。程よくお江戸(笑)にも近いですし。快速をつかえば東京駅まで80分になりましたから、都内へ通勤する方にもいいと思います。一日の中で一宮と東京とを往復すると環境の違いが大きいと思われるかもしれませんが、それを楽しんでいる方も多くいらっしゃいます。実際にはここも「どっぷり大自然につかる」というほどの田舎ではないと思いますし。なにもかもがちょうどいい。たとえば都内で行われている展覧会を見に行きたいと思ったら、ちょっと時間確保すれば行くことができる距離っていうのはありがたいなと感じています。
これから一宮への移住を考えている方へのメッセージを
一宮は歴史のある町で、いろいろな発見があると思います。都心から引っ越してこられたら、たぶん同じような状況の方と一緒のほうが居心地のよい部分があるという気持ちもとっても理解できます。でもここに住みたいと思った最初の気持ちは大切にしてもらって、そのためにも地域の方々とのコミュニケーションを図っていただけたらと思います。一宮の人々は明るい方が多いですし、すぐにとけ込むこともできると思いますよ。
*たまあーと創作工房 : みどりと海に囲まれて,みんなで楽しく作品を生み出しています。こども教室、美術教室、各教室随時生徒募集をしています。
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